ドンファン

紀州のドン・ファン事件：無罪判決を覆すか？控訴審の行方と謎の核心

日本の静岡県・御津町（現・磐田市）で起きた、資産家女性の殺害事件。「紀州のドン・ファン」と異名を持つ元夫・須藤悟被告（当時51歳）は、一審の静岡地裁で無罪判決を受けました。しかし、検察はその判決を不服として控訴。2024年10月8日、静岡高等裁判所で控訴審の初公判が開かれ、再び真実を巡る攻防が始まっています。

殺意を否定する被告と、間接証拠を積み上げる検察。この事件は、単なる遺産相続トラブルから始まり、なぜ「無罪」が「有罪」へと覆されるのか？その核心に迫ります。

事件の概要：裕福な元妻と「紀州のドン・ファン」の因縁

事件の舞台は、静岡県西部、紀州（和歌山県）に近い地域です。被害者である女性は、農業と不動産で莫大な資産を築いた人物でした。そして、その女性と離婚した男性が、須藤悟被告です。須藤被告は、豪快な金遣いと女性関係の多さから「紀州のドン・ファン」と呼ばれていました。

2017年1月、女性の自宅敷地内にある納屋から、女性が首を吊られた状態で発見されました。当初は自殺と見られていましたが、不自然な点が相次ぎ、警察は捜査を開始。逮捕されたのが、事件当日に現場近辺にいた須藤被告でした。

遺産相続を巡る確執

事件の背景には、確かな金銭トラブルがありました。被害者女性は、自身の遺産を巡り、須藤被告との間で揉めていたとされています。女性は、被告に多額の金銭を渡していたものの、それを巡って係争中だった可能性が高いです。

検察側は「被告は、女性の遺産（数千万円単位）を確実に手に入れるため、自殺に見せかけて殺害した」と主張。一方、被告は、金銭的な動機を否定し、事件当日は面会に行ったものの、殺害は行っていないと無罪を主張しています。

一審の判決が示した「疑わしきは罰せず」

2021年3月、静岡地裁（大野克尚裁判官）は、須藤被告に無罪判決を下しました。

判決のポイントは、「客観的な証拠だけでは、殺意や犯行を立証できない」という点です。被害者の首には、自殺の痕跡とされる「絞痕」と、殺害による「絞痕」の両方が見つかりました。裁判所は「自殺の可能性も否定できない」と判断。目撃証言や客観的証拠が乏しい中、「疑わしきは被告人の利益に」という原則（無罪推定の原則）を貫きました。

しかし、この判決に検察は猛烈に反発。控訴審で、新たな証拠や解釈をもって「有罪」を迫ることになります。

最新の動向：控訴審初公判で明らかになった攻防

2024年10月8日、静岡高等裁判所で控訴審の初公判が開かれました。須藤被告は、無罪を主張し続ける一方、検察は一審を覆すための材料を提示しました。

検察側の主張：自殺を疑わせる矛盾

控訴審で検察が重点を置いたのは、被害者の「自殺願望」の有無です。

一審では、被害者が自殺をほのめかすメモを残していたことが争点となりました。しかし、検察は「そのメモは被告が偽造した可能性が高い」と主張。さらに、被害者が事件直前に友人に送ったメールやSNSのメッセージには、自殺をほのめかすような内容はなく、むしろ元気になろうとしていたと指摘しました。

「自殺に見える状況を被告が工作した」という、より強力な論理構成で、一審の無罪判決を覆そうとしています。

須藤被告の反論

一方の須藤被告は、公判廷でも容疑を否認し続けています。検察が主張するような「遺産狙いの殺意」はなく、当日も揉み合いになっただけで、首を絞めた事実はないと訴えています。

一審の無罪判決を受けて、被告は「やっと真実が認められた」と安堵していましたが、再び裁判の矢が自分を向ける状況に、精神的な負担は少なくないものと見られます。

背景にある「紀州のドン・ファン」とは？人物像と社会的波紋

この事件が社会的な注目を集める理由の一つは、須藤被告の異名「紀州のドン・ファン」にあります。

「ドン・ファン」としての人物像

「紀州のドン・ファン」とは、彼の生活態度を表す言葉です。豪快な性格で、女性関係が派手だったことから、地元では有名な存在でした。事件当時、被告は複数の女性と交際していたとされています。

この異名は、単なる噂話ではなく、裁判においても「被告の性格」として証拠提出される可能性があります。検察側は、「自己中心的で、女性を物として扱うような人物像」から、殺意を導き出そうとします。一方、弁護側は、「異名だけで有罪にするのは危険」と反論しています。

地域社会への影響

この事件は、静岡県西部の小さな町を揺るがしました。被害者女性は地元で評判の資産家であり、須藤被告も地域住民でした。裁判の行方は、地域の信頼関係にも影響を与えています。

また、「遺産相続」を巡る争いは、現代社会における高齢化や資産管理の問題と深く結びついています。孤独な資産家を狙った犯罪（いわゆる「持ち家詐欺」や「遺産目当ての結婚」）への警鐘として、この事件は多くの示唆を含んでいます。

今後の展望：控訴審の行方と判決の影響

控訴審は、一審の無罪判決を覆すか、あるいは維持するか。その結果は、日本の司法制度においても大きな意味を持ちます。

裁判の争点となる「間接証拠の評価」

この事件には、決定的な目撃者やDNAなどの直接証拠がありません。すべてが「間接証拠（状況証拠）」の積み重ねで成り立っています。

裁判所が、検察が提示する「自殺工作」のシナリオをどの程度信用するかが鍵となります。もし控訴審で有罪判決が出れば、「間接証拠のみで死刑や無期懲役の判決が出る可能性がある」という判例として、今後の類似事件に影響を与えます。

判決が与える社会的インパクト

仮に有罪が確定すれば、「遺産を狙った身近な人物による犯罪」という構図が強まり、資産家に対する社会的な注意喚起になります。

逆に、無罪が確定すれば、「物証がない限り、たとえ状況が疑わしくとも有罪にはできない」という司法の厳格さが再確認されます。どちらの判決が出るにせよ、日本の裁判制度の在り方を問う重要な判例となるでしょう。

まとめ：真実を裁くには？

「紀州のドン・ファン」事件は、愛憎と金銭、そして虚偽と真実が渦巻く、現代日本の縮図です。

10月8日の初公判で、検