台湾有事とは

台湾有事とは？高市早苗発言を巡る波紋と、その真意に迫る

「台湾有事」という言葉を耳にする機会が、近年ますます増えてきました。これは単なる架空のシナリオではなく、日本にとって無視できない安全保障上のリスクとして、国際社会で頻繁に議論されています。特に最近では、与党自民党の総裁選を控え、安全保障政策への姿勢が注目を集める中、高市早苗経済安全保障担当大臣（当時）の発言が大きな波紋を呼んでいます。

一体、現在の台湾情勢はどうなっているのか。そして、高市大臣の発言とは何だったのでしょうか。本記事では、報道機関の記事に基づきながら、「台湾有事」の定義と、最近巻き起こった政治的な騒動の核心に迫ります。

台湾有事とは？その意味と、日本が受ける影響

まず、そも「台湾有事」とは、どのような状況を指すのでしょうか。

一般的に、この言葉は「中国が台湾侵攻に踏み出す、あるいはそれに類する軍事的緊張が極限に達した状況」を指します。歴史的に見れば、1950年代の金門島・馬祖島への砲撃（金門砲戦）や、近年の台湾海峡における中国軍の軍事演習などが、その緊張の現れです。

しかし、この問題が日本にとって切実なのは、地理的な近さと、そこから派生する安全保障のリスクによります。

台湾有事＝日本の安全保障上の危機、という構図が成り立つ理由は主に3点です。

1. シーレーンの遮断: 日本のエネルギー輸入の約8割、貿易量の約9割は、中東から台湾海峡を通る海上輸送ルートに依存しています。台湾有事は、このルートの封鎖を意味し、日本の経済に致命的な打撃を与えます。
2. 尖閣諸島への影響: 台湾の北東に位置する尖閣諸島は、台湾有事と切り離して考えることはできません。中国が台湾侵攻を行う場合、その作戦域が尖閣周辺に及ぶ可能性は極めて高いと見られています。
3. 「台湾は日本の生命線」: 自民党の安全保障調査会長である小野寺五典氏は、「台湾が getNode（倒れ）れば、日本は następnym（次に）_Node（攻撃）される」という認識を示しており、台湾の平和が日本の平和に直結するという見方は、日本国内の安全保障のコンセンサスの一つとなっています。

騒動の発端：高市早苗氏の「台湾有事発言」の衝撃

この「台湾有事」を巡り、2024年9月、与党自民党総裁選を控えたタイミングで、高市早苗経済安全保障担当大臣（当時）の発言が、国内外の注目を集めました。

事件の発端は、9月12日、衆議院安全保障委員会での質疑応答です。野党議員から、日本政府が「台湾有事」と呼称することに慎重な姿勢を見せる中、高市大臣は次のように述べました。

「（台湾有事という言葉は）政治的なニュアンスが強いため、国防省や外務省では使いづらい側面がある。しかし、私自身は『台湾有事』という言葉を（議論の場で）使っている」

この発言は、一石二波を呼びました。政府内部でも、「台湾有事」という言葉を使いすぎると、中国を刺激し、事態を悪化させる可能性があるとして、使用に慎重な意見が根強かったからです。

中国からの強い反発

この発言に最も敏感に反応したのは、中国です。

中国外務省の報道官は、即座に「日本側が『台湾有事は日本の有事』と繰り返し言明し、台湾海峡の平和・安定を損なう発言をすることは、極めて危険だ」と非難しました。さらに、9月18日には、中国の駐日大使・呉江浩氏が日本経済新聞に寄稿し、高市大臣の発言を「憲法を蹂躙する行為」と厳しく批判し、発言の撤回を要求しました。

「（高市大臣の発言は）『台湾独立』分裂勢力に誤ったシグナルを送り、台湾海峡の平和と安定を著しく損なうものであり、中国の内政への干渉にあたる」 — 中国駐日大使・呉江浩氏（日本経済新聞寄稿より）

国内での政局への影響

国内でも、与党・自民党内の総裁選挙の争点の一つとして、この発言が取り上げられました。

中国共産党との関係を重視する立場から、高市大臣の発言を「危険」と批判する声も上がりました。特に、自民党総裁選に出馬した石破茂氏（元防衛大臣）は、「（高市大臣の発言は）政府の統一見解と異なり、中国との関係を悪化させる可能性がある」と指摘。安全保障政策を巡るスタンスの違いが、党内外の論戦をにぎわせました。

報道が伝えた事実と、政府の対応

この一連の騒動において、私たちが確認すべきは、複数の報道機関が伝えた事実関係です。

• 日本経済新聞は、中国の駐日大使が高市大臣の発言を「直ちに撤回を」と要求した事実を伝えています。
• Yahoo!ニュース（スポニチアネックス）は、自民党総裁選期間中、共産党の山添拓氏が参議院予算委員会で高市大臣の発言を「憲法を蹂躙…危険極まりない」と批判し、撤回を求めたことを報じています。
• JBpressの記事は、高市発言がトランプ元大統領に通じる「忖度なし」の姿勢として、一定のインパクトを持つと分析しています。

一連の報道から浮かび上がるのは、高市大臣の発言が、従来の日本政府の「言葉遣いに慎重な姿勢」とは一線を画す、極めて強い政治的メッセージとして受け取られたという事実です。

「台湾有事」という言葉の持つ重み

なぜ、専門家や政治家が「台湾有事」という言葉の使いために、これほど神経質になるのでしょうか。

その背景には、この言葉が持つ二つの側面があります。

1. 「日本の有事」と直結するという安全保障上の事実

先述の通り、台湾海峡の安定は日本の国益と直結しています。したがって、高市大臣が「台湾有事は日本の有事」という認識を示すことは、安全保障政策上の「事実」として、国防の在り方を議論する上での出発点となり得ます。

2. 「越境」という政治的なリスク

しかし、政府として「台湾有事」という言葉を正式に使用することには、リスクも伴います。それは「越境（えっきょう）」、すなわち日本の安全保障の範囲を、従来の「日本の領土・領海」から「台湾海峡」という領域に拡大して解釈していると見なされる危険性です。

中国は、台湾を自国の領土と主張しています。日本政府が「台湾有事」を公式に安全保障のリスクとして位置づけることは、結果的に「中国の内政干渉」と見なされ