黒蜥蜴
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黒蜥蜴：深作欣二が映画化した三島由紀夫の世界、美輪明宏の鬼気迫る演技が蘇る
戦後の日本文学を象徴する作家・三島由紀夫と、任侠映画の巨匠・深作欣二。この二人の天才が碰撞した珠玉の作品が、映画「黒蜥蜴（くろトカゲ）」である。そして、その舞台を彩ったのが、伝説の芸能人・美輪明宏だ。
近年、NHK BSでの放送をきっかけに、この名作の存在が再び脚光を浴びている。三島由紀夫の妖艶な戯曲を、圧倒的な映像美で彩った「黒蜥蜴」の魅力と、その背後にあった歴史的背景を探る。
黒蜥蜴という映画：美輪明宏が演じた怪盗の美学
三島由紀夫×深作欣二という異色の組み合わせ
1968年に公開された映画「黒蜥蜴」は、三島由紀夫の同名戯曲を原作とし、深作欣二が監督を務めた作品だ。三島は自ら脚本も手掛けており、自作へのこだわりが詰まっている。
この映画の最大の見どころは、何と言っても美輪明宏が演じる怪盗「黒蜥蜴」の存在感だ。夜叉のように美しく、残酷な魅力を兼ね備えたこのキャラクターは、美輪明宏の鬼気迫る演技によって、今なお語り継がれる伝説的な役柄となった。
三島由紀夫自身も美輪明宏の演技を絶賛していたと伝えられており、特に三島が特別出演で扮した「探偵・岩瀬頼一郎」との対面シーンでは、緊張感あふれる空気が映像を支配する。
美輪明宏主演映画「黒蜥蜴」NHK BSで放送、三島由紀夫が特別出演 （Yahoo!ニュース 記事より）
映像美と官能的な世界観
深作欣二監督は、任侠映画の名手として知られるが、「黒蜥蜴」ではそれまでにない妖艶な世界観を構築した。暗く、しかし華やかな美術と照明が、怪盗と富豪の娘という非日常的な設定を引き立てる。
三島文学特有の「生と死」「美と残酷さ」が、映像の力で可視化されている。これは単なるサスペンス映画ではなく、一種の心理劇、あるいは舞踊劇のような趣すらある。その点が、単なる娯楽作品としてではなく、芸術作品として後世に語り継がれる理由の一つだろう。
ここが凄い！「黒蜥蜴」の見どころ徹底解説
三島由紀夫自身の出演シーン
映画「黒蜥蜴」には、三島由紀夫本人が探偵役で特別出演している。これは単なるカメオ出演ではなく、物語の鍵を握る重要な役割だ。
三島は寡黙ながら、存在感だけで画面を押さえ込む。美輪明宏との対決シーンでは、互いの氣（き）がぶつかり合う、まさに「芸の火花」と呼ぶべき凄演が炸裂する。文学と映画の境界を越えた、貴重な瞬間と言えるだろう。
美輪明宏の「美」と「狂気」
美輪明宏は、当時既に「黒蜥蜴」を舞台で演じ経験があった。その経験を生かし、映画でも圧倒的な演技力を発揮した。
彼の演技は、ただ悪役を演じているのではなく、「美しさの極致は狂気にある」という三島の美学を体現している。一挙手一投足に、癖のある台詞回しに、見る者を魅了する魔力を宿している。近年、若手の俳優が演じることも多いが、美輪明宏の版本を越えられる者はいないという声が fan の間では根強い。
「黒蜥蜴」場面写真 - 美輪明宏の出演作「黒蜥蜴」NHK BSで放送 （ナタリー ギャラリーニュースより）
最近の動き：なぜ今「黒蜥蜴」が注目されているのか
NHK BSでの再放送とその反響
近年、NHK BSの「名画の時間」などの枠で「黒蜥蜴」が再放送された。これにより、映画を観たことのない層や、かつて観た記憶がある中高層を中心に、再び注目が集まっている。
特にSNS上では、「美輪明宏の演技は神業」「三島由紀夫の字幕が美しい」「時代を超えた映像美」などの声が多数寄せられ、改めてその名作ぶりが认可されている。
古典作品としての再評価
昨今、レトロブームやオールドファンタジーの再上映など、過去の名作が見直される傾向がある。「黒蜥蜴」もその例外ではない。
しかし、単なるレトロ趣味の対象としてではなく、そのメッセージ性、特にジェンダーやセクシュアリティに関する先進的な描写が、現代の視点からも新鮮に映る点が特徴だ。黒蜥蜴（美輪明宏）は、男とも女ともつかない超越的な存在として描かれており、現代の多様性の文脈でも解釈の余地を残している。
作品の背景に迫る：三島由紀夫と「黒蜥蜴」の成り立ち
戯曲から映画へ
原作の戯曲「黒蜥蜴」は、1928年に小山内薫が上演した『黒蜥蜴』を基にしているが、三島は大幅な加筆修正を加え、独自の版本に仕立て上げた。
三島は、ieg（エログロ）な要素と、サスペンスの要素を融合させ、大衆 entertainment としての面白さと、文学的深さの両立を狙った。その手腕が本作の映画化で花開く。
深作欣二の監督力
深作欣二は、『仁義なき戦い』などで知られる硬派な監督イメージが強いが、「黒蜥蜴」では繊細な演出を繰り広げる。
特に、美輪明宏の動きを如何に映像で捉えるか、如何に三島の台詞のリズムを画面に反映させるかに腐心したと伝わる。その結果、退屈な場面がない、密度の高い一本が完成したのである。
現代に響く「黒蜥蜴」のメッセージ
美と残酷さのアンビバレンス
「黒蜥蜴」が今もなお語り継がれる理由は、そこに描かれるテーマが古くないからだ。
怪盗・黒蜥蜴は、宝石（美の象徴）を盗むが、それ以上に「命」や「愛」を弄ぶ。彼女にとって、宝石は所持するものではなく、「破壊するもの」であるという発想は、現代の消費社会における美術品やファッションの在り方にも通じる。
舞台との違い、映画化の意義
舞台と映画、どちらが「黒蜥蜴」に適しているかは議論の分かれるところだが、映画版の最大の利点は、美輪明宏の「目」や「指先」の細かい演技をクローズアップで見られることだ。
舞台では客席の距離感があるが、映画はその息遣いまで届かせる。三島が追求した「肉体の言語」を、映画という媒体が最大限に引き出した作品と言える。