佐田の海

佐田の海、38歳の壁を越えて初の「首ひねり」。大相撲九州場所での快挙とその背景

大相撲の九州場所が開催される福岡・薬院。その土俵上で、38歳という年齢で鮮烈な勝利を収めた力士がいます。佐田の海（さだのうみ）伯桜吉（はくしょうきち）です。大相撲の世界では「30代後半」という年齢は、引退が視野に入るハイリスクな領域です。しかし、彼はその常識を覆すような存在感を示し続けているのです。

2025年11月21日、佐田の海は、元大関・鶴竜の後継者として期待される獅司（しし）を破り、今場所4連勝と調子を見せています。特に話題を呼んだのが、その勝ち方。「まずいと思って振りほどいたら、首ひねりが決まった」という、まさに一瞬の勝負師的な勝利でした。なぜ、38歳のベテランが、今もなお這麼熱い戦いを続けられるのか。その秘密と、彼の目指す「三役・優勝」という壮大な目標に迫ります。

佐田の海の「首ひねり」とは？ 獅司戦での勝負の行方

本場所も中盤に差し掛かった2025年11月21日、佐田の海は西前頭筆頭の獅司と対戦しました。この試合、佐田の海は序盤で獅司の攻勢に押され、劣勢に立たされる展開でした。しかし、劣勢を悟った瞬間、佐田の海が取った行動は、ただの力勝負ではありませんでした。

行きついた末の勝利哲学

佐田の海は、試合後のインタビューでこう語っています。

「まずいと思って振りほどいたら、首ひねりが決まった」

これは言葉通りに受け取れば、「まずい」と感じた瞬間、無意識のうちに体が動いた結果、奇跡的な技が決まったという意味です。しかし、この言葉の裏には、長年土俵で鍛え抜かれた「勘」が存在します。相撲界では「首ひねり」は、相手の重心を崩すための非常に繊細で高度な技術。単なる乱打戦ではなく、相手の動きを読んだ上での「一点突破」という勝負師の技です。この勝利は、佐田の海が単なる「頑丈な力士」ではなく、高度な技術と勝負勘を持つ「プロフェッショナル」であることを証明しました。

38歳の異次元体力・佐田の海の強さの秘密

大相撲において、38歳は「古参」中の「古参」です。若手力士と比較して、筋肉の衰えや回復力の低下は避けられません。しかし、佐田の海は、この年齢で現役のトップを争うだけのパフォーマンスを発揮し続けています。

塀越えと手芸、意外な強さの源

その強さの秘密は、意外な所にあるかもしれません。Yahoo!ニュースで公開された婦人公論.jpの記事では、佐田の海の意外な一面が明かされています。

「ストレス解消法は手芸とお菓子作り。初優勝を決めた日の朝に生まれた次男ももう6歳。今は三役と3度目の優勝を目標に」

この情報から、彼が肉体的な鍛錬だけでなく、精神的な安定感を手芸や料理といった「落ち着いた趣味」で保っていることがわかります。大相撲界では、力士の健康状態や生活管理が成績に直結します。特に、38歳という年齢では、精神的なタフさと生活リズムの管理が、単なる体力勝負を上回る重要性を持ちます。彼の強さは、単なる「若さの暴力」ではなく、経験と人生の知恵を土俵に反映させた「熟練の技」なのです。

九州場所と佐田の海の深い関係

佐田の海の本名は、松本 洋道（まつもと ひろみち）。彼の所属する境川部屋は、元大関・鶴竜（モンゴル出身）が創設した部屋であり、現在では大関・豊昇龍（もともとモンゴル出身）などが活躍する名門部屋です。

しかし、佐田の海自身は、その境川部屋の中でも異色の存在です。彼は、境川部屋の師匠（元大関・鶴竜）がまだ現役で大関だった頃からいる、まさに部屋の「横綱・大関」を支えてきた古参力士です。その存在は、部屋の「壁」であり「羅針盤」のようなもの。

福岡・薬院での「地元力」

九州場所は、彼の出世場所でもあります。彼が十両に昇進したのは、2014年（平成26年）の九州場所でした。以来、彼は毎年、九州場所で何かしらの勝負を見せてきました。彼の名前「佐田の海」は、境川部屋の師匠の出身地でもある「佐田」から取られていますが、彼自身の土俵への愛着も非常に強いです。福岡の熱気は、彼の闘志をかき立てる特別な存在なのかもしれません。

「三役・優勝」という目標：佐田の海が目指す先

佐田の海は、決して安泰な立場にいません。彼は、2025年11月現在、西前頭筆頭という位置にいます。ここからさらに勝ち進むことで、三役（関脇・小結）への復帰が期待されます。彼自身、婦人公論.jpの記事で「三役と3度目の優勝」を目標に挙げています。

過去の実績と残された時間

佐田の海には、過去に三役（小結）での経験があります。しかし、近年は前頭中位での浮き沈みが続いていました。その彼が、38歳で再び三役を目指す。これは、大相撲界において稀有なケースです。 彼の最大の課題は「持続力」です。15日間の本場所を通じて、怪我や疲労なく勝ち越すことが、三役復帰への必須条件。彼の強さの源である「精神力」と「手芸・お菓子作りによるストレス解消」といったマネジメント能力が、今後ますます問われることになります。

まとめ：老いと闘う、佐田の海の底力

2025年九州場所で見せた佐田の海の勝利は、単なる一試合の勝ちを超えた意味を持ちます。それは、年齢による衰えを、技術と精神力で跳ね返そうとする、一力士の執念の表れでした。

「まずいと思った瞬間」に繰り出した首ひねり。それは、38年の人生で培った「勘」が生んだ奇跡であり、現在の彼が目指す「三役・優勝」という目標への確かな一歩です。

今後の九州場所で、彼がどのような成績を残すか。特に、上位陣との対戦で、彼の武器である「首ひねり」や「巧みな四