略式起訴
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兵庫県政を揺るがした一連の疑惑と、その法的結論。2025年11月13日、神戸地方検察庁は、斎藤知事の公設秘書への暴行疑惑や選挙公報での虚偽記載疑惑について、「略式起訴」を含む形で起訴猶予処分としました。知事本人の「不起訴」という結果を受けて、斎藤氏は「主張通りの決着」と強調する一方、告発側の弁護士は「捜査中」の盾は通用しないと反発。残された説明責任の行方と、県政の先行きに関する議論が今、各方面で沸騰しています。
本記事では、略式起訴を含む法的判断の意味や、最新の公式発言、そしてこの事件が示す「知事の説明責任」という論点に焦点を当て、兵庫県政の現在地を詳しく解説します。
公表された事実:神戸地検の判断と「略式起訴」とは?
この論争の核心は、斎藤知事の公設秘書による暴行事件と、知事の選挙公報における虚偽記載疑惑に対する検察の最終的な判断です。
2025年11月13日、神戸地方検察庁は、公設秘書の暴行罪に関する件、および斎藤知事本人の選挙公報虚偽記載に関する告発事件について、処分を下しました。主なポイントは以下の通りです。
- 公設秘書への暴行罪: 公訴時効が成立していたため、「公訴棄却」となりました。
- 斎藤知事への虚偽記載疑惑: 証拠不十分などを理由に、「起訴猶予(略式起訴)」処分が下されました。
この結果、斎藤知事本人は「不起訴」という形になりました。これを受け、斎藤知事は11月13日の会見で「私に対する告発は、(検察の)判断が私自身の主張と一致した形で決着した」と述べ、疑惑を改めて否定しました。
「略式起訴」と「起訴猶予」の違いとは?
ニュースで頻繁に耳にする「略式起訴」という言葉。実は、この言葉自体には少し誤解が生まれやすい部分があります。厳密には、検察が下した処分は「起訴猶予(きそゆうよ)」です。
「起訴猶予」とは、被疑事実が認められるにもかかわらず、被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重、犯行後の状況などを考慮し、公訴を提起しないことが相当と認められる場合に、検察官が行う処分のことです。起訴はされませんが、有罪・無罪の判断が下されたわけではなく、5年の起訴猶予期間を経過すると公訴時効となり、原則として刑事責任は問われなくなります。
一方、「略式起訴」とは、正式な裁判を経ず、書面審査のみで罰金などの略式命令を求める手続です。報道各社が「略式起訴」という表現を使っている場合、おそらく検察が「起訴猶予」という最終処分を下したものの、その判断に至るプロセス(例えば、罰金刑相当と判断したが、結果として起訴猶予にしたなど)を指すか、あるいは一般向けの説明として用いている可能性があります。重要なのは、結果として知事本人は起訴されず、刑事裁判にはかからないという点です。
県政の「決着」と残る「説明責任」
検察の判断を受けて、県政の当事者である斎藤知事と、告発側である弁護士との認識には決定的な隔たりがあります。
斎藤知事の「主張通り」という強調
斎藤知事は会見で、「捜査中」として沈黙を貫いてきた理由を正当化し、「捜査が終了した以上、『捜査中』という言葉は通用しない」との指摘にも応じ、「私自身の主張と一致した」と反復しました。これは、自身の潔白が証明されたという認識であり、この結果をもって一件落着と見なす姿勢です。
告発側の反論:見えない真相
一方、告発を提起した弁護士は、検察の判断を受けて「不起訴処分は想定内」としつつも、以下のような厳しい見解を示しています。
- 客観的証拠の不足: 秘書の暴行事件では、公訴時効が成立していたため、検察が実質的な事実認定を行う機会が失われました。
- 知事の説明不足: 選挙公報の虚偽記載については、検察が起訴猶予とした背景や、具体的にどの点が虚偽と認定されたのか(あるいは、証拠が不十分だったのか)の詳細な説明がなされていないため、国民の納得は得られていないと主張しています。
つまり、刑事責任を問う「司法の場」は閉じられましたが、政治的・社会的な責任を問う「国民の審判」の場は依然として開かれたままなのです。
背景にあるもの:兵庫県政と「虚偽記載」疑惑の深層
なぜ、選挙公報の記載内容がこれほどまでに大きな問題となったのでしょうか。ここには、兵庫県政の構造的な課題と、政治不信を懸念する市民の目があります。
選挙公報の「公共性」と虚偽記載
選挙公報は、選挙運動期間中に有権者に配布される公式文書です。その中には、候補者の学歴・職歴など、経歴に関する記載が含まれます。政治家としての信頼性は、経歴の正直さに大きく依存します。
斎藤知事の公報では、特定の職歴(「株式会社〇〇 取締役」という記載など)について、実際の在籍期間や役職の性質が公報の記載と異なる、あるいは誇大表現であるとの指摘がなされていました。告発側は、公職選挙法違反(虚偽記載)にあたるとして、検察に刑事告発していました。
略式起訴という「中間地点」の意味
検察が「起訴猶予(略式起訴)」を選んだ背景には、複雑な事情があると推測されます。
- 立証の困難さ: 公報の記載が「虚偽」にあたるかは、表現の解釈や意図の認定が難しく、有罪判決を獲得できる確信が持てなかった可能性があります。
- 公益の観点: 一方で、完全に不起訴(嫌疑なし)とすると、事実上無罪を宣言する形となり、客観的な事実関係(記載と異なる事実があったこと)との整合性が取れなくなるリスクもあります。そこで、「事実上は有罪と認定するが、起訴は猶予する」という中間的な措置を採った可能性が指摘されています。
この「起訴猶予」という処分は、法的には「無罪」ではありません。一方で、刑罰も科されません。この曖昧な状態が、両者の主張の隔たりを生み、県民の混乱を招いている一因でもあります。